楽器製作のセオリー

名の通った、いわゆる銘器と呼ばれる類の楽器の修復をして板の厚さなどの計測をすると、現代の製作セオリーから大きくかけ離れた作りになっていることが少なくない。それで音が良いのだから「現代の製作セオリー」って何?と思ってしまう。

ここで言う製作のセオリーとは20世紀になって著名なストラド研究者などによって形作られ、広く流布している楽器作りのメソッドで、現代の製作家は大なり小なりこのメソッドの提唱する工法や寸法に影響を受けていると言っていいと思う。

こういうセオリーが広く知られることで、多くの人に楽器作りへの門戸が開かれたという意味は大きいと思うのですが、実際に楽器を作っているとそういう決まり事がいい楽器を作る上で必ずしも助けにならないという思いを抱くことが多々あります。

Poggiは工法上理由があってそのメソッドを無視している作り方をしている部分がいくつもあるのですが、セオリー通りになっていない、という理由で修理され、オリジナルが失われてしまっているケースが少なくない。それは残念なことです。

優れた製作家が良い楽器を作るために突き詰めていった手法が、その人なりのセオリーを形作るのであって、何故そうやって作るのか。という洞察や理解があってはじめてセオリーが意味のある道標になるんだと思います。表板は何ミリを基準とすべし、と示されると分かりやすいですが、数値や形だけの寸法表などにはあまり意味がない。

Saviniもよく「寸法をなぞるな。数値は数値でしかない。」とよく言っていました。ぱっと見不可思議な寸法や作りに見えても、そういう作りにこそ作り手の思いや経験の結晶が宿っているのではないか。

何故こうなってるのかわからないが、音はいい。という銘器の作りを見て、そんな風に思うのです。

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